松に入日ををしむ碁の負(け) 打越
那古の浦一商ひの風もみず 前句
鰤には羽子がはえて飛ぶ年 付句(通算52句目)
鰤には羽子がはえて飛ぶ年 付句(通算52句目)
『西鶴独吟百韻自註絵巻』(1692年頃)
【付句】三ノ折・裏2句目。 鰤(冬)=正月の必需品にて歳末の贈答品。 羽子=片仮名のネを「子」とする当時の表記。
【句意】鰤に羽根が生えて飛ぶような売れゆきの年末。
【付け・転じ】前句の風向きさえ気にしない愚かな商人にも歳末商戦がくるとみて、鰤のバカ売れへと飛ばした。
【自註】前句、海の事なれば「鰤」を付けよせける。その年の暮によりて、*伊勢海老のすくなき事も有り、*代々の**年ぎれする事も有り。数の子、門松、家々のかざり道具、一品もなうてはならず。何によらず、其の年、世間にすくなき物を、「羽子がはえて飛ぶ」とは商人の申せし言葉也。
*伊勢海老 *代々(橙)=ともに蓬莱飾りの品。越年しても実がつくので「代々」と縁起をかつぐ。
**年ぎれ=その年によって品薄になること。
【意訳】前句が海を場としているので「鰤」を題材として付け寄せた。その年その年の暮によって、伊勢海老が品薄のこともあれば、橙が払底する年もある。数の子、門松などは家々の飾り物で、一品とてなくてはならない。そこで何によらず、世間に出まわらない正月用品は「羽子がはえて飛ぶように売れる」と、これは商人が申した言葉なのである。
【三工程】
(前句)那古の浦一商ひの風もみず
年切れの品気にも止めずに 〔見込〕
↓
【句意】鰤に羽根が生えて飛ぶような売れゆきの年末。
【付け・転じ】前句の風向きさえ気にしない愚かな商人にも歳末商戦がくるとみて、鰤のバカ売れへと飛ばした。
【自註】前句、海の事なれば「鰤」を付けよせける。その年の暮によりて、*伊勢海老のすくなき事も有り、*代々の**年ぎれする事も有り。数の子、門松、家々のかざり道具、一品もなうてはならず。何によらず、其の年、世間にすくなき物を、「羽子がはえて飛ぶ」とは商人の申せし言葉也。
*伊勢海老 *代々(橙)=ともに蓬莱飾りの品。越年しても実がつくので「代々」と縁起をかつぐ。
**年ぎれ=その年によって品薄になること。
【意訳】前句が海を場としているので「鰤」を題材として付け寄せた。その年その年の暮によって、伊勢海老が品薄のこともあれば、橙が払底する年もある。数の子、門松などは家々の飾り物で、一品とてなくてはならない。そこで何によらず、世間に出まわらない正月用品は「羽子がはえて飛ぶように売れる」と、これは商人が申した言葉なのである。
【三工程】
(前句)那古の浦一商ひの風もみず
年切れの品気にも止めずに 〔見込〕
↓
右も左も鰤の高買ひ 〔趣向〕
↓
↓
鰤には羽子がはえて飛ぶ年 〔句作〕
愚かな商人に対し、年切れの商機を向かわせ〔見込〕、〈品薄の商品は何か〉と問い、前句の「浦」から鰤とみて〔趣向〕、「羽子がはえて飛ぶ」という慣用句をサンプリングした〔句作〕。
『永代蔵』や『胸算用』に、年ぎれ対策が載ってますね。伊勢海老の代わりに車海老とか、橙の代わりに九年母とか、廉価なもので間に合わせるという。
「そやな。それも俳諧の知恵やで」
愚かな商人に対し、年切れの商機を向かわせ〔見込〕、〈品薄の商品は何か〉と問い、前句の「浦」から鰤とみて〔趣向〕、「羽子がはえて飛ぶ」という慣用句をサンプリングした〔句作〕。
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「そやな。それも俳諧の知恵やで」
……? ていうと。
「〈代わり〉いうことは、〈見立てる〉いうことやろ」
なるほど、そういえば見立て作家の田中達也氏も〈見立てて補う力〉みたいなことを言ってましたね。
「見立て作家いうのは俳諧師のことかいな」
いや、ミニチュア写真家でして。
「みにちあ、なんや知らんけど、転合な感じでよろしいな」
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