
八上桐子
墓地を出て一つの音楽に帰る 中村冨二
死、あるいは死者と向き合うしずかな時間を過ごし、日常へと戻る。その日常を、冨ニは家でも町でもなく音楽と表現した。
墓地を一歩出ると、人の声や車の音、風の音……さまざまな音が一気に耳に流れ込んでくる。
そうした無数の音も織り交ぜ、人生というたった一つの音楽の一節一節ができてゆく。
音楽祭終り けものに耳二つ
水道から水なぞ出た、ひとりぼっちの拍手
好きだったとはハモニカが水に落ち
冨ニはハモニカの名手だったとか。 冨ニの川柳は深刻ぶらず軽やかで、ハモニカの音色のようにどこかさみしい。
『中村冨二・千句集』 (ナカトミ書房/1981年)
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