2024年10月28日月曜日

●月曜日の一句〔仲寒蟬〕西原天気



西原天気

※相子智恵さんオヤスミにつき代打。




村よりも明るきバスや虫時雨  仲寒蟬

夜間のバスは街で見てもたいそう明るい。光を満載して走行/停車するかのように。

窓明かりも街灯もまばらな《村》ならなおさらだろう。それにまた、乗客が少なければ、バスの明るさがいっそう際立つ。

前半のくっきりとした視覚から、下五の聴覚へ。順当な設え。

掲句は仲寒蟬『全山落葉』(2023年7月/ふらんす堂)より。

2024年10月26日土曜日

〔人名さん〕みうらじゅん

〔人名さん〕みうらじゅん

この秋の風鈴ひとりゐみうらじゅん  宮﨑莉々香

『オルガン』第38号・2024年9月15日

2024年10月25日金曜日

●金曜日の川柳〔岸本水府〕樋口由紀子



樋口由紀子





うたた寝が起きてうたた寝叱りつけ

岸本水府(きしもと・すいふ)1892~1965

うたた寝Aとうたた寝Bがともにうたた寝をしている。そこはうたた寝をしていけないところ、たとえば、店番とか、観劇とか、でも、退屈で、暇だし、ついうとうとしてしまった。うたた寝Aがしまったと思って、あわてて目をあけると、なんとうたた寝Bがうとうとしている。うたた寝Aはうたた寝などしていないふりをして、うたた寝Bを「おい」と起こして、叱りつける。

岸本水府の川柳はなんといっても言葉運びが上手い。落語の一場面のような軽快さがあり、その語り口はぽんぽんぽんとテンポが心地よい。機知に富んだ、軽みの川柳の見本のようである。

2024年10月21日月曜日

●月曜日の一句〔矢野玲奈〕相子智恵



相子智恵






虫籠を虫籠らしく土と枝  矢野玲奈

句集『薔薇園を出て』(2024.8 ティ・エム・ケイ出版部)所収

これは昔ながらの風情ある竹細工の虫籠ではなく、現代のプラスチックの透明な虫籠、いわゆる「飼育ケース」だろう。買ってきたばかりの状態は、いかにも無味乾燥だ。そこにふかふかの腐葉土と、どこかから拾ってきた枝を入れて、ようやく虫籠らしくなるのである。現代の都会の虫籠のリアルな姿が面白い。

この虫籠で飼うのは鈴虫だろうか。胡瓜などもエサとして入れているかもしれない。本句集には、

  保育園へは鈴虫に会ひに行く

という句もあって、この句も何気ないけれど現代らしい一コマである。都会では自然に鈴虫の声を聴くことは、もはや、なかなかかなわないものだから、保育園で飼育ケースに入れて飼っているのだ。子どもにとって珍しい鈴虫は、友達同様に〈会ひに行く〉存在。送り迎えをする親にとっても、もはや鈴虫は〈会ひに行く〉だったりするのだ。

 

2024年10月18日金曜日

●金曜日の川柳〔藤田晉一〕樋口由紀子



樋口由紀子





ただ一つ似てくれたのは親不孝

藤田晉一(ふじた・しんいち)1957~

「ただ一つ」といきなり特別感を出してくる。次に「似てくれたのは」と好奇心をくすぐり、それは一体なになのかと読み手の興味をぐっと引っ張る。そして、最後に「親不孝」とすとんと落とす。川柳の見本のような一句である。

「てくれた」はそれによって恩恵や利益を受けることだが、大阪弁でよく使う。嘆きたいこともぼやきたいことも悔やむことも言い訳したいことも、くどくど言いたいことは山ほどある。しかし、それらはすべて胸の内にしまって、「そうそう、うちも」という共感を引き出して、潔く退場する。「よみうり柳壇」(2024年刊)収録。