2008年11月25日火曜日

●シネマのへそ02 ICHI 村田篠

シネマのへそ02
ICHI (曽利文彦監督2008年)

村田 篠



時代劇といえば勧善懲悪、というのが、ひとつのお決まりのパターン。

しかし、大映映画のかつての二大シリーズ、市川雷蔵の『眠狂四郎』と勝新太郎の『座頭市』は、単純な勧善懲悪ではないところがミソだった。
それを成功させたのは、もちろん、雷蔵と勝新という大スターふたりのスター性であり、人間の業に重きをおいた脚本であり、クライマックスを引き立たせる殺陣の鮮やかさである。
ふたりの際だった個性の賜物として、かの映画群は、今でも輝きを失わない。

が、それは、あくまでも、男の世界を描いた映画としてのこと。
主人公「市」を女性に設定して「座頭市」の世界を再構成した『ICHI』で、同じ骨法を用いるわけにはいかない。
よぼよぼと杖をつく盲目の男が、一転して白目を剥き、人を斬る姿は、勝新ならばかっこよくなろう。が、綾瀬はるかのような若い女性に、それをやらせてはいけない。誰もそれを望んでいないし。

というわけで、やはり、恋をキモに据えたメロドラマにならざるをえないのであった。
しかも、あれが現代風なのかどうなのか(テレビドラマ風なのかもしれない)、気持ちのやりとりがおとなしく曖昧で、人を斬る市の覚悟や感情の昂ぶりが、いまひとつズドンと胸にこない。
さらにもうひとつ言うならば、盲人が人を斬ろうというとき、なにより「物の音」が問題になってこようが、その部分の演出があまりきちんとなされていないのも、不満が残る。

そんななか、綾瀬はるかは、「はなれ瞽女」という被虐の歴史をほのかに背負い、堕ちてはいるが朽ちてはおらず、オバサンでもなくオンナのコでもない、強く切ない女を凛々しく好演。
横顔がいいんだよね、ってオンナの私がいうのも何ですが。
それと、忘れるところだった。中村獅童のヒールぶりは、文句なしにおすすめである。


アクション度 ★★
綾瀬はるかオススメ度 ★★★★★


ICHI 公式ホームページ

2 件のコメント:

匿名 さんのコメント...

曽利文彦監督「ピンポン」でも、中村獅童はヒールを怪演してましたもんね(それ以外に観るところのない映画でした)。

匿名 さんのコメント...

森田芳光の『阿修羅のごとく』の中村獅童も怪演でした。こちらは、ヒールでない怪演です。