おんつぼ04
ザ・ジャム The Jam
榮 猿丸
おんつぼ=音楽のツボ
ジャムをはじめて聴いたのは、高校の頃だった。そのときはすでに解散していたが、ジャムの存在はそれ以前からロック雑誌で知っていた。グラビアの、細身のスーツを着こなして、眼光鋭くカメラを見据えるポール・ウェラーに憧れて、当時原宿にあったスイッチで、お世辞にも仕立てがいいとは言えないモッズ・スーツを買った。はじめて着たときの、パッツンパッツンの下半身の感覚が未だに忘れられない。「ローリング・ストーンズはゴミだ」など、インタビュー記事でのパンク・スピリット溢れるストレートな発言の数々にもぞくぞくしたものだった。
ジャムの曲の中では、「Going Underground」(1980)が長らく僕のベスト1だったが、俳句を始めるようになって、「That’s Entertainment」(1980)が俄然輝き出し、今ではこの曲が1番好きである。「Going Underground」とは対照的な、単調で、ミニマルな曲調。都市生活者の日常の細部、断片がひたすら並べられていく詩。それら断片の映像喚起力(リアリティ)。そうしたところに、表層的かもしれないが、漠然と、俳句的なものを感じたのだった。ウブなのだ、僕は。
パトカーのサイレンの音、ドリルで削られたコンクリートの破片、自動車の急ブレーキの音と明滅するブレーキランプ、結露した壁、公園でアヒルに餌をやる、君の淹れた紅茶を飲み残す……。それら日常の断片の数々が宙吊りのまま提示されたところに、〈That’s Entertainment〉と切れ味鋭いコーラスが挟み込まれる--こうした曲を聴くと、パンクというものの内実は、至極まっとうな、都市生活者のロックであったというのがわかる。その音楽スタイルも、こうした内的必然に支えられた不可避的なものであった。同じように、今の都市生活者の俳句を書こうと思えば、それに見合った文体が自然と要請されるだろう。〈That’s Entertainment ! 〉と吐く青臭さは、今の時代にはそぐわないだろうけれど。
俳句度 ★★★
青臭度 ★★★★★
The Jam - That's Entertainment
〔おすすめアルバム〕 SNAP!/The Jam
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2 件のコメント:
ポール・ウェラーのスタイリッシュでやや神経質なところが田舎者の私には少し近寄りがたく感じたものです。都会の不良、ですね。
僕は田舎者であるがゆえに憧れたんですね。まあ、当時のロックシーンを考えれば、日本じたいが田舎だったんですが。
たしかにポール・ウェラーは近寄りがたい感じあります。そこがまたかっこよかったりして。
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