2011年11月21日月曜日

●月曜日の一句〔井上井月〕 相子智恵


相子智恵








酒さめて千鳥のまこときく夜かな  井上井月

句集『井月全集 第四版』(2009.9/井上井月顕彰会)より。

酒が醒めた、極寒の野宿の夜だ。
千鳥の声が聞こえる。チチチチとか弱い、真実の声。
頭上にはおそらく満天の凍星、雪を戴いた中央アルプスが月に照る――。
井上井月は幕末から明治にかけて、長野県の伊那谷を放浪した俳人。
芭蕉を慕い、放浪の旅に生きた彼のバイブルは「幻住庵の記」。それまでの36年間の前半生を一切語らず、まるで生き直すように伊那谷を歩き続ける。
家々で俳句を詠み、流麗な書を書いた。最初は人々に慕われながらも、戸籍がないことが許されなくなった明治に入ると、だんだん疎まれ、石を投げつけられ、しまいには酒が体を蝕み、ぼろぼろになって糞まみれで行き倒れる。
井月が主人公のドキュメンタリー&フィクション映画「ほかいびと~伊那の井月」が、伊那旭座で公開を迎えた。
田中泯主演、樹木希林の語り、あとの登場人物はすべて伊那の住民という異色作だ。
雪原を白装束で踊る、死に際の田中泯は圧巻である。


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