2011年11月28日月曜日

●月曜日の一句〔中村光三郎〕 相子智恵


相子智恵








寒の耳ひとつひとつが右の耳  中村光三郎

句集『春の距離』(2011.11/らんの会)より。

たいそうヘンな句である。

読者が好き勝手に読める、ヘンな句である。

たとえば、この世のどこかに「耳の製造工場」があると思ったって、よいのである。

私は〈寒〉の一語の寒々しさと「KAN」という硬質な響き、そして〈右の耳〉だけの整然とした世界に、機械にプレスされて右耳ができあがる様子を、ふと夢想する。

プレスされた〈右の耳〉たちは、ベルトコンベアーに乗せられて、一定方向に粛々と、列をなして流れてゆく。やがてコンベアーの最後で、ぽとり、ぽとりと、ひとつひとつが箱に落ちる。

箱の中に山盛りの、寒々しく淋しい〈右の耳〉たちに、私の心の言葉はぐんぐんと吸い込まれ、心が無音のからっぽになる。

そしてそれはなぜだか少し、安らかなのである。


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