2012年8月10日金曜日

●金曜日の川柳〔井上剣花坊〕 樋口由紀子



樋口由紀子







かまきりはかなわぬまでもふりあげる

井上剣花坊 (いのうえ・けんかぼう) 1870~1934

「かなわぬまでも」の中七が効いて、一生懸命なかまきりの姿が目に浮かぶ。かまきりは庶民の比喩だろう。庶民の姿であり、庶民の一人として自分もそうありたいと願っている。掲句は大正10年に作られた。反骨、風刺のメッセージ性が強く、一般読者にもよくわかる川柳である。〈ころされてまだかまきりの斧動く〉当時の社会的背景を考えると剣花坊の意図と熱感が伝わる。

井上剣花坊は川柳中興の祖。「柳多留の昔へ還れ」「狂句百年の負債を返せ」と説き、川柳は「階級のキモノを着ない人間の詩」でなければならないとした。新聞「日本」に「新題柳樽」として川柳を掲載し、「新題柳樽」はやがて新川柳のメッカとなる。〈咳一つ聞こえぬ中を天皇旗〉〈米の値を知らぬやからの桜狩〉。

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