2015年7月13日月曜日
●月曜日の一句〔中嶋陽子〕相子智恵
相子智恵
身ごもりしほてり香水避けてより 中嶋陽子
句集『一本道』(2015.6 ふらんす堂)より
妊娠して急激に変わる体調は、自分が生物であることをありありと感じさせる。生物のDNAが持つ一番の役割は次世代に種を残すことで、自分はいまヒトとして、有無を言わさずそれに向かわされているのだと、妙に感心させられるほどの変化である。本人以外でわかることはお腹が大きくなっていくことぐらいだが、本人が感じる体の内部の変化は凄まじい。
掲句、つわりの頃だろう。匂いというものがこれほど体調に影響するということも、身ごもって初めて気づく。きつい香水の匂いを避けて通った瞬間、身の内の生命を守るために高くなった体温を、ほてりで自覚する。倒置の表現が印象的だ。
母となる喜びのような心情を吐露した、ほんわか明るい「吾子俳句」ではなく、掲句は生物としてのリアルを、五感を使ってうまく瞬間的に捉えた。
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