樋口由紀子
昼の月犬がくわえて行きました
筒井祥文 (つつい・しょうぶん) 1952~2019
月は夜のものだと思ってしまうが、昼にも月は出ている。場違いのようにうっすらとある。昼の月が出ているときに、あるいは自分自身が昼の月のようなときに、犬がなにかをさっとくわえて走り去っていった。それを見たときに瞬時にふと我に返ったのだろう。犬がくわえて行ったのは自己そのものだったのかもしれない。昼の月の下でなにかが暗示され、生の存在を実感したのだろうか。
筒井祥文が3月6日に亡くなった。ぽっかりと大きな穴が空いた。大切な、信頼できる川柳人をうしなった。古風で、品のある、センチメンタルを書ける川柳人がいなくなった。〈月に手をゆらりと置けば母が来る〉〈なぜだろうきれいなお湯を捨てている〉〈蟹を喰う男に耳が二つある〉 『セレクション柳人 筒井祥文集』(邑書林 2006年刊)所収。
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