2022年1月24日月曜日

●月曜日の一句〔加藤瑠璃子〕相子智恵



相子智恵







大鮟鱇べたりと置かれ箱の中  加藤瑠璃子

句集『雷の跡』(2021.10 角川文化振興財団)所載

解説のいらない明瞭な景。〈べたりと置かれ〉がまさに鮟鱇らしい描写である。ぬめぬめとした水の塊のような大きな鮟鱇が、トロ箱の中いっぱいに〈べたり〉と広がっている。〈大鮟鱇〉〈べたり〉の濁音が存在感を際立たせている。

鮟鱇といえば、加藤楸邨の次の名句がすぐに浮かぶ。

 鮟鱇の骨まで凍ててぶちきらる 加藤楸邨『起伏』(昭和24年)

楸邨の鮟鱇は吊るし切りだろうか。身はバラバラになり、もはや元のかたちを留めない中で、なおも骨までぶち切られている。瑠璃子の句は、これからそのように切り刻まれる運命にある鮟鱇の、ふてぶてしくも哀れな最後の姿かたちを淡々と描き、響きあっている。

瑠璃子は加藤楸邨の次男・冬樹と結婚。楸邨の死後、「寒雷」選者、編集長を務め、終刊後は後継誌「暖響」の会長、顧問を務めた。本書は遺句集である。

0 件のコメント: