2022年1月28日金曜日

●金曜日の川柳〔木暮健一〕樋口由紀子



樋口由紀子






牛の耳ピクリ軍靴か竜巻か

木暮健一 (きぐれ・けんいち) 1936~

私の耳もたまにピクリとする。そのほとんどはよくないことで、予想もしなかったものに出会ったり、夜中に物音がしたときなどである。恐怖で瞬間的に身体が小さく動く。牛の耳がピクリとしたのを見て、災厄が起こるかもしれないと、牛が動物特有の勘で察知したと思ったのだろう。

「朝、牛舎に行くといっせい牛が振り向く」とエッセイに書くように作者は北海道で酪農業に従事している。「牛乳が余ると減産・破棄を言い、一方で輸入は増える、その繰り返しだった。地球や人間社会の平穏こそ、生きものたちへの何よりのプレゼントだと思っている」の一文に作者の思いがよく表れている。戦争や自然災害が忍び寄ってくる世の中は来てほしくないというメッセージがある。「触光」収録。

0 件のコメント: