2011年8月19日金曜日

●金曜日の川柳 樋口由紀子


樋口由紀子
  







ひと箱の桃を夫婦で腐らせる

谷智子 (たに・ともこ)

桃一箱はお盆のお供えに誰かが持ってきてくれたのだろう。仏壇の前にずっと置かれていたことは夫婦のどちらも気づいていた。けれどもなんとなく億劫で、それに他のことに気をとられてそのままにしていた。お互いに相手が気づいて冷蔵庫にでも入れて食べてくれるだろうと思っていた。箱を開けると腐っていた。ああせっかくの桃がもったいない。桃は腐りやすい、だから気をつけなければと思っていたのにとうとうやってしまった。

徐々に腐っていくものはたくさんある。まして箱に密封していたのではなおさらである。わかっているのに気づかないふりをしたり、あやふやなままにしているのは、ある意味で生きていく上の知恵でもある。まだ桃でよかった。桃ならば買えばすむことである。暑さでぼっーとしてうっかりしていたということにしよう。「バックストローク」(第12号 2005年10月)収録

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