2012年9月3日月曜日

●月曜日の一句〔松浦加古〕 相子智恵



相子智恵







向き合へる蝗の貌の真面目かな 松浦加古

句集『這子』(2012.8 文學の森)より。

「だって、イナゴの佃煮って“佃煮の味”しかしないじゃないっすか。アサリの佃煮は貝の味がちゃんとするのに、イナゴは素材に味がないのがイヤなんですよねー」

某後輩俳人と、なぜか蝗の佃煮の話になった。この長野県の郷土料理の話になると、ふつうは「虫を食べるなんて信じられない」という話になって、蝗の見た目と食習慣のグロテスクさに話が終始するのだが、素材の味がしないからイヤっていうのは、ちょっと新鮮だった。たしかに、蝗の佃煮に虫の味はしない。食感は川エビに似ている。味のしない川エビ……。

さて掲句。一匹の蝗と作者が向き合っているのか、あるいは二匹の蝗同士が向き合っているのか。どちらにせよ、向き合っている蝗に表情は皆無である。

だが、その貌が〈真面目〉だと書かれると、急に蝗の無表情にも愛嬌があるように思えてきて可笑しい。〈真面目かな〉の脱力感がいいのだ。

蝗って、無表情で何考えてるかわからないけど、あいつら意外と真面目らしいよ。佃煮も、うまいらしいよ。佃煮の味しかしないけど……。


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