2013年3月2日土曜日
●水曜日の一句・前々々々夜祭〔大口元通〕関悦史
新シリーズ
関悦史「水曜日の一句」
スタート記念 前々々々夜祭
関悦史
恐竜の振り向いている桜かな 大口元通
一見奇怪な組み合わせだが、公園に設置された模造の恐竜と取れば何の不思議もない光景ではある。
かつて地球の覇者であった恐竜も、今では巨大な玩具じみた物件として花の中に静止するのみ。
それはそれで何がしかの感興をもたらす景色ではあろうが、句の言葉のみをたどれば、模造品とは特に明示されていない。句中のイメージにおいては「恐竜」と「桜」は、ともに同じ時空に現前している。
そこから太古に想いが及ぶ。
ジュラ紀には既に被子植物が登場していたようだが、恐竜が桜を見る機会はあったのかどうか。
仮に見られたところで、彼らは何の情趣も感じることはなかっただろう。
そして今では動くこともない模造品として、見られる一方の立場となった。
その間に経った時間は二億数千万年ほどである。
滅亡後ずいぶんしてから、桜を見る姿を地上に留められ、ありえない極楽じみた安らぎを与えられたものだ。
「かな」の大らかさの中には、それだけの経緯が含まれている。
句集『豊葦原』(2012.12 海鳴り発行所)所収。
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