相子智恵
その他はブルーシートで覆はるる 宮本佳世乃
句集『三〇一号室』(港の人 2019.12)所載
掲句、何がブルーシートで覆われているのか明示されていない。ただ〈その他は〉とあるだけだ。〈その他〉は「それ以外のもの」ということだから、逆にどうしても「以外」で区切られた「それ」を思い浮かべる構造になっている。「それ」であるところの「ブルーシートの外の世界」は、「それ」として言及するほど特別であり、つまり、取り立てて言及する必要のない「名もなき日常」の世界ではないことがわかる。これは日常の中で見たブルーシートではなく、やはり被災地のブルーシートなのだろう。
ブルーシートに関する wikipedia に〈阪神・淡路大震災では、避難所の設営、破壊された屋根の雨漏り対策などに使われ、防災グッズとしての利点も見いだされたことから、対策の備蓄品として防災倉庫にストックする自治体も増えた〉と書いてあって、ブルーシートには「災害」という読みのコードが強烈に付加されたのだ、と改めて思う。
ここから〈覆はるる〉で見えてくる景がある。ブルーシートに覆われ、半端に「片づけられた」景だ。掲句はその悲しみを、透明感のある静かな文体で詠む。
かつて、この場所には〈その他〉と「それ」をブルーシートで分ける必要のない、名もなき日常があった。再び日常を取り戻そうとするその場所のあちこちが、今はブルーシートで覆われている。景観を考慮して青色になったというシートの、明るくのっぺりとした人工的な青色に、何とも言えない喪失感がある。
〈その他は〉と極度に風景を抽象化しながら、被災地の風景の本質を静かに掴み出している一句だ。
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