相子智恵
息通ふほどのへだたり立雛 岡崎桂子
句集『大和ことば』(朔出版 2020.01)所載
なるほど、確かにそうだなあ、と思った。〈立雛〉は、男雛が両手を横に伸ばした恰好で、女雛は手を閉じているものが多く、男雛のピンと張った片袖の内側に、女雛が寄り添うような配置のものが多い。掲句から私が想像するのも、そのような配置の〈立雛〉だ。
二つの雛人形は寄り添ってはいるけれど、決してくっついてはいない。息が通うほど近く、でも二体の間には明らかに〈へだたり〉がある。
〈息通ふ〉の擬人化によって、この〈立雛〉は人間らしい体温を与えられているが、一方で、〈へだたり〉には人形独特の冷たさがある。その落差によって、温もりがあるのに、しんと冷ややかな雛人形というものがうまく表現されている。
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