樋口由紀子
間違って「閉経!」と言う裁判長
倉本朝世 (くらもと・あさよ) 1958~
そんなことはさすがにありえないだろうと思いながらも、ひょっとしたらと、にたにたしながら読んだ。裁判長という偉い人でもそういう間違いをすることはあるかもしれない。「閉廷(へいてい)」と「閉経(へいけい)」、「て」と「け」のたった一文字の発音の違いである。けれども意味内容は大きく変わる。一字違いで大違いの、わざとらしさが功を奏している。
誰もがやってしまいそうなことを、誰もが持っている不安感をユーモアで引き出している。言葉の意味性を逆手にとって、とんでもないところを見せる。「閉経」と「裁判長」を象徴的に存在させて、言葉の、社会の、価値観の転覆をはかっているようにも思う。『現代川柳の精鋭たち』(2000年刊 北宋社)所収。
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