相子智恵
君は今春の眺めのよい部屋に 瀬戸満智子
句集『懐かしき未来』(文芸社 2019.12)所載
自分が今、〈君〉と同じ家にいて、他の部屋から〈眺めのよい部屋〉にいる〈君〉を見ている句だと読んでもよいのだが、私には〈君〉の〈眺めのよい部屋〉を懐かしく思い出している句のように読めた。〈君は今春の眺めのよい部屋に〉の後に「いることだろう」が続く感じである。懐かしい君の〈眺めのよい部屋〉は今、春を迎えて〈春の眺めのよい部屋に〉なっていることだろう。しかし、そこに私はいない。
〈君〉との関係は分からないのだけれど、二人は恋人だったのかもしれない。春は出会いと別れの季節というけれど、掲句からは春の美しい光が、切なく、でもすがすがしく感じられてきて、小説の最後の一行のような余韻のある句だと思った。
この句集は、瀬戸満智子氏の一句一句に矢口晃氏の鑑賞が付く珍しいスタイルの一冊である。掲句についての矢口氏の鑑賞は当然ながら私の鑑賞とは違うのだが、そういう違いを見つけていくのも、こういうスタイルの句集の面白さなのだろう。
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