樋口由紀子
コインロッカー荷物を出して他人になる
金築雨学 (かねつき・うがく) 1941~
「コインロッカー荷物を出して」まではごく普通のセリフである。が、それが「他人になる」であっと思わせる。それまでは身内だったのかと戸惑いを覚える。確かに私の大切な、身近な荷物が入っているときは気になる存在の、言われてみれば身内の感覚で。でも、荷物を取り出してしまえば、もう何の未練もなくなり、さっぱりと「他人になる」と言う。
しかし、他人や身内は人間同士間のことで、モノには無縁で、モノに対して本来は言わない。それを強いて使うことによって、「他人になる」というにはどういうことなのかと、言葉を立ち現わす。そして、他人になった「コインロッカー」はその姿をずっと見せ続ける。『現代川柳の精鋭たち』(2000年刊 北宋社)所収。
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