2011年9月5日月曜日

●月曜日の一句〔四ッ谷龍〕 相子智恵


相子智恵








渡り鳥鏡を抜けて来しもあらむ  四ッ谷 龍

「むしめがね」第19号(2011年8月)「こだま」より。

台風ごとに空は高くなる。高い空の北の彼方から、渡り鳥たちが今年もやってくる。

はるか上空を渡る鳥たちがまとっている空気は、キラキラと、凛と、冷たい空気だろうか。秋の大気に、鏡のような輝きと冷たさが思われた。

……いや、そうではない。

本当に渡り鳥のいくつかは〈鏡を抜けて〉来たのだ。比喩的な連想は働きつつも、やはり鳥は〈鏡を抜け〉たのだ。この句にはそんな美しい説得力がある。

〈鏡を抜けて〉という詩的な羽ばたきと、鳥が渡る秋空の実感。その二つのイメージが高いところで融合され、美しい一句に結晶している。

6年ぶりに発刊されたという「むしめがね」は読みどころが多い。なかでもフランスの作家ティエリー・カルザスによる冬野虹論「ぶらんこの上の虹」は美しい音楽のように、静かなフィルムのように、芯をふるわせる。


1 件のコメント:

四ッ谷 龍 さんのコメント...

ありがとうございます。
ティエリー・カザルスの文章を読んでいただいたことがとりわけ嬉しく。
「ぶらんこの上の虹」はたいへん好評です。