2019年4月12日金曜日

●金曜日の川柳〔徳永政二〕樋口由紀子



樋口由紀子






できることできないことに春がくる

徳永政二 (とくなが・せいじ) 1946~

やっと春になった。陽射しも明るく、風もあたたかい。木々は芽吹いて、花が咲き始める。固まっていた身体や心がゆっくりとほどかれていくようで、大きく息を吸いたくなる。歳を重ねるごとに春がくるのが嬉しい。こんなに春を待ち望んでいたのかと自分でも不思議なくらいである。

いままでできていたことができなくなっていると気づくことがある。一方、もうできないかなと思っていたことがまだどうにかできることもある。「できる」には「見える」「動く」「読む」などのあらゆる動詞が含まれているみたいである。

昨年亡くなられた樹木希林さんのエッセイ集『一切なりゆき』が100万部を突破したそうである。掲句を読んで、「なりゆき」を感じた。すべてのことに春はくる。それらを受け入れて、じたばたしないで生きようと思う。〈春だからただそれだけで決めました〉〈山鳩のあたりの横があいている〉〈亀のいるあたりぼんやりあたたかい〉〈わいわいがいいねと風になるまでを〉 「びわこ」(2019・4月号)収録。

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