2019年4月15日月曜日

●月曜日の一句〔石山ヨシエ〕相子智恵



相子智恵







中空の春まだ浅し鳥雫   石山ヨシエ

自註現代俳句シリーズ12期37『石山ヨシエ集』(俳人協会 2019.1)所収

〈鳥雫〉は造語。鳥が雫のように落ちてきたということだろう。雲雀のような鳥が急降下してくる様子を想像する。自註を読めばこの造語に至った経緯もわかるのだけれど、一句そのものの鑑賞を楽しみたいので自註には触れずにおく。

季語としては「春浅し」ということになるが、〈中空の春まだ浅し〉によって、地に近い私たちにとっては、春がもうすでに浅くないことがわかる。このように春の訪れの時間差、空気の冷たさの違いは〈中空の春まだ浅し〉だけでも言い切れてはいる。

だがそこに〈鳥雫〉があることで、鳥が急降下する一瞬のうちに触れる空気の温度差を読者は追体験することになる。鳥の落ちてくる速さ、そして大地を潤す「雫」という言葉。この美しい造語が一句の質感を決定づけ、早春から仲春への凛として瑞々しい空気がよく伝わってくるのである。



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