2008年12月7日日曜日

●鳥の四原色 野口裕

鳥の四原色

野口 裕


『鳥の脳力を探る』(細川博昭・ソフトバンククリエイティブ)には、鳥の視力のことが書いてある。それによると、鳥が見ることのできる波長領域はヒトのそれよりも広く、紫外線の領域が見える。

これは寺田寅彦が『とんびと油揚』で論じている以下の事柄のどこが間違っているかを端的に示している。
かりにねずみの身長を十五センチメートルとし、それを百五十メートルの距離から見るとんびの目の焦点距離を、少し大きく見積もって五ミリメートルとすると、網膜に映じたねずみの映像の長さは五ミクロンとなる。それが死んだねずみであるか石塊であるかを弁別する事には少なくもその長さの十分一すなわち〇・五ミクロン程度の尺度で測られるような形態の異同を判断することが必要であると思われる。しかるに〇・五ミクロンはもはや黄色光波の波長と同程度で、網膜の細胞構造の微細度いかんを問わずともはなはだ困難であることが推定される。
さて、どこが間違っているのか。寺田寅彦の文中で〇・五ミクロンとあるのは、五〇〇ナノメートルにあたるが、ヒトが見ることのできる最短波長が四〇〇ナノメートルであるのに対し、鳥は少なくとも三六〇ナノメートル、種類によっては三〇〇ナノメートルまで見える。仮にヒトがとんびの高さまで飛ぶことができても、地上にあるねずみの死骸を見つけるのは容易ではないが、とんびは容易に見つけることができるのだ。

また、ヒトが赤・緑・青の三原色を感じることができるのに対し、鳥は赤・緑・青にプラスして紫を感じることのできる四原色で、色を識別している。ヒトよりもより細かい色の判別ができることになる。

ゴミ袋を、紫色の光を遮断する材質で作ると、ヒトの目からは中の物は普通に見えるが、カラスには識別しにくくなり、食べ物には見えないようになる。このようにして、カラスに啄まれにくいゴミ袋が開発されている。まさに、

  鶏たちにカンナは見えぬかもしれぬ(渡邊白泉)

なのだが、詳しくは、「鶏の見るカンナ」はヒトには見えず、「ヒトの見るカンナ」は鶏には見えない、のだ。


〔amazon〕 鳥の脳力を探る 細川博昭

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