2009年4月15日水曜日

●中嶋憲武 紅梅焼

〔中嶋憲武まつり・第4日〕
紅梅焼

中嶋憲武


仕事がひさしぶりに早く終ったので、散歩してみようかと思った。

このあいだ叔母の家へ行ったとき、母と叔母の住んでいた家の位置をメモしておいたので、そのあたりを訪ねてみたいと思った。

ビューホテルの前の信号を渡る。ビューホテル(むかしは国際劇場)の向かいの商店街の裏の路地に、東京大空襲まではあったのだ。

六区のほうから路地へ入る。すると背後から「すみませーん」という声がした。振り向くと警官がふたり、小走りに来た。ひとりの警官は、ちかごろ23歳年下の嫁さんをもらったA氏に似ている。聞けば最近このあたりで物騒な事件があったので、俺のバッグの中身を確認させてもらいたいとのこと。バッグを開けながら、この路地へ入った理由などを聞かれたので、「このあたりに戦前、母の家があったので」と答える。詩的な気分になりかけていたときだったのに、この一件で一気にその気分を削がれる。バッグの中身を点検し、失礼しました、これから暗くなりますから気をつけてくださいとA氏に似た警官は言うと、路地を出て行った。俺は舌打ちをしてA氏に似た警官の後ろ姿を見送った。

母と叔母の家は、現在「豊建」という建築会社のところだと見当をつけた。

路地を出て、ひさご通りから六区の商店街を歩く。商店街では俺と似たような風体の男が、所持品を警官にチェックされている。やけに警官が出張っている。これからやってくる暗闇に備えているのかもしれない。

花やしきの前の通りから浅草寺へ抜ける。浅草寺は補修中で、終るのは2年後だそうだ。イントレランスが組まれ巨大な映画のセットのようになった伽藍を眺める。あれでは鳩も夜、休める場所に困るだろう。

仲見世を抜けていくと、雷門の近くに紅梅焼きの店があった。この店は川端茅舎に「初観音紅梅焼のにほひかな」と詠まれた店で、水原秋桜子は「雷門をすぎて、仲見世通にはいると、すぐに紅梅焼の店がある。今でもつづいているが、むかしのほうが一、二軒多かったのではないかと思う。店の奥でそれを焼いており、その匂いが子供には実になつかしいものであった」と書いている。

店頭に立ってみると、人形焼ばかり目についたので、店の親父をつらまえて「ぜんたい紅梅焼はあるかい」と聞くと、親父は商人らしく小賢しそうな目をしょぼしょぼさせて、「今やってない。もう10年くらいやってない。看板に書いてあるだけだよ」と言った。

しょんぼりとして、大通りをあるき、目についたスターバックスへ入った。シカゴじゃ、インスタントも売り出されているらしい。マカロンをぽりぽり食べながら、コーヒーを飲んだ。

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