眠らない海
中嶋憲武
むかし観た「小さな恋のメロディ」というイギリス映画の影響であろうか。それともこの時期の地霊の振り撒く憂愁のせいであろうか。
小学生の恋人たちは、学校をサボって海へ遊びに行く。砂の城を築くうちに少年の手が少女の手に触れ、そこで少年は少女へ「結婚しようか?」と言うのである。子供ながらに観ていて羨ましいシーンであった。
何年か前に、会社を辞めた者同士で月に一度くらい集まっていた時期があって、旅行をしようという話になった。晩春のころだったと思う。当日集合したのは男ばかり4人。浦賀からフェリーに乗り房総へ渡り、小さな灯台のある岬で一泊した。
洋上は穏やかに晴れていて気分がよく、風が爽快だった。こんな時にビールが飲みたくなるのだなと思った。ぼくは飲めぬので、シュウェップスを飲んでいた。あとの三人は無論ビール。
岬はホテルと灯台とみやげ物屋ぐらいしかなかった。灯台へ登り海を見て、灯台を降りて岩場に座り海を見た。岩場の水たまりに小さな名の知れぬ魚がいたので、プラスティックのコップに確保してメロディみたいに目の高さまで持ち上げる。
夜、眠れなくてもう一度、岩場へ行った。海はまっくらだった。ときおり遥か沖合いをゆく船の灯りがちらちらするのみ。風が生暖かく頬をなでる。昼間、灯台の下にいた猫たちはどうしているかなと考える。眠くなるまで海をみていようと思った。
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