2009年4月11日土曜日
●中嶋憲武まつり・前夜祭 ナカジマさん
中嶋憲武まつり・前夜祭
ナカジマさん
さいばら天気
中嶋憲武さん、すなわち「週刊俳句」不定期連載「スズキさん」でお馴染みの中嶋憲武さんが、映画『タナカヒロシのすべて』(2004年・田中誠監督)の主人公タナカヒロシのモデルであることを知る人は、すでに多いとはいえ、いまだ俳句世間の常識とはなっていないので、これをここで告げる次第。
映画でタナカヒロシを演じたのは怪優・鳥肌実。顔は、中嶋さんとは遠い。中嶋さんの顔のことをすこし言っておくと、「和製グールド」と一部で言われているとおり、特に横顔がグレン・グールドに似ている。ついでにいえば、中嶋さんは、去年あたり、ピアノを習い始め、14,800円だかでピアノ式ぴこぴこキーボード(カシオ製)も購入したが、このところはレッスンをサボってばかりらしい。
で、映画の話。
タナカヒロシはカツラ工場(右写真・資料映像)に勤める独身男性。中嶋さんはカツラ工場に勤めたことがないそうだ。タナカヒロシは「テルミンと俳句の会」という怪しげな集まりに出かけ、俳句を捻ったりするが、中嶋さんの所属する炎環(なんでも一度クビになったらしい)に、テルミンを持ち込んだりする句会は存在しない。
ところで、この映画、かなりおもしろい。未見の方はぜひツタヤででもどうぞ。とりわけ、ラストは主人公の明るい未来をほんわかと予見させ、日本映画屈指の素晴らしさ。一方、中嶋さんの現在は、明るいのか暗いのか。
映画の中のタナカヒロシは、鳥肌実が演じるだけあって、かなりヘンな人である。その点、実在の中嶋さんと似ているか似ていないかと問われれば、似ていないけれど、中嶋さんもかなりヘン、と答える。鳥肌実演じるところのタナカヒロシと、リアル・タナカヒロシとも言うべき中嶋さんとでは、ヘン具合が異なる。
中嶋さんと初めて会ったときのことを、不思議なことにまったく憶えていない。この映画を観る前だと思うが、記憶は朦朧。ただ、句会で、初めて拙宅を訪れたときのことは憶えている。
その頃、その句会(くにたち句会)は「悪魔のように句を捻り、悪魔のように飲み、かつ食う」という触れ込みどおり、題詠(10題程度)でやたら句を捻り、合評の頃から始まる飲食は句会後も延々と続き、夜が更けてゆく。参加者は最終電車を気にしつつ、その夜の飲食と談笑にふける。
主催しているこちらとしては皆さんの足のことが少しは気になる。「ナカジマさん、電車は? まだ大丈夫?」と、ふと問うた。
「あ、もう、ないです」
え? ないって? じゃあ、帰れないということ? お泊まり?
「はい」
句会参加者がみな帰ったあと、風呂に入ってもらい、妻が来客用の蒲団を敷いた。ワンナイト・スタンドで中嶋さんは「うちの子」となったのだ。初めて遊びに来た家に泊まって帰る人もめずらしいなあ、と、私たちは笑った。
翌朝、洗面台の前に、中嶋さんがいた。妻が入っていくと、それまで髪を梳かすのに使っていたヘアブラシをそっと置いた。勝手に使って叱られるとでも思ったのだろうか。鏡の中で視線が合うのを避けるようにあらぬほうを見ながら、そっとブラシを台に戻したという。
それから、中嶋さんと私は国立駅前の珈琲屋エクセルシオールで朝ご飯を食べた。話題はなく、話は途切れに途切れた。俳句の知り合いではあっても、オッサンふたりで俳句の話など、しない。かといって、まだ知り合って間もない頃で、他に共通の話題はない。私は、誰かとふたり黙ったまま過ごせるタチの人間で、中嶋さんもそのようだ。いつまでも黙って、コーヒーを飲み、ホットドッグか何かを食い、それから中嶋さんは、国立駅から電車に乗り、きっと遅刻だろう職場へと向かった。
あれから、4年ほどの時間が経った。中嶋さんはいまも月1回の句会に訪れるが、最終電車に遅れることはなくなった。きっと最初のとき、まだあまり知らない私に「そろそろ電車の時間なので」と告げる勇気がなかったのだろう。また、こちらも時間に気をつけるようになった。
いまは、あの頃よりもいくぶん親しく付き合うようになったが、しかし、実は、中嶋さんのことをあまり知らない。そして、よくわからない。
ただひとつ、わかることは、うちの猫が中嶋さんのことを大好きだということだ。初めてのときから、うちの猫は中嶋さんの膝の上でくつろいでいた。私たちにも見せたことのないような幸せな顔をして、いつまでもくつろいでいる。うちの猫と中嶋さんは、どういうわけだか知らないが、魂がつながっているのだ。それが、中嶋さんについて私がわかることのすべてである。
というわけで、ウラハイでは明日から、何日連続かはわからないが、「中嶋憲武まつり」である。
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